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権利書(権利証)争奪戦を見て思う~そして「権利証」がなくなる日 [その他法律の話]

以前にTV(某バラエティ番組のドラマコーナーの中)で、悪徳業者に奪われた、恩人の店の権利証を取り戻すために、昔の仲間が集まり奮闘する、というくだりがありました。
最終的には、茶封筒に入ったB5判くらいの「権利証」は無事取り戻されるのですが、これって、不動産登記の実務に携わった経験がある人が見たら、思わず苦笑してしまうのではないでしょうか。
脚本を書いた方は本当にご存じなかったのか、それとも(短い放送時間の中で)分かり易くするために、そうしたのかは判断しかねますけれど。
実際、他のドラマの中でも、借金のカタに「権利証」を取られる、という描写はよく見られますが、「権利証だけ」では、実際に名義を変えたりすることはできません。

まず「権利書」あるいは「権利証」というのは俗称で、正確には「登記済証」といいます。何らかの登記を申請し、完了後に登記所から交付されるものですから、抵当権の設定、単なる住所変更の登記をした場合も「登記済証」は交付されるわけですが、一般的には所有権移転の登記済証を「権利証」と呼んでいるようです。
ちなみに「登記所」という役所も正確には存在しません。法務局・地方法務局及びその支局、出張所が登記事務を行なっており、ここを一般的には「登記所」と呼んでいるわけです。バス停の名前なども「法務局前」と「登記所前」とが混在しているようで、一昔前の「派出所」と「交番」みたいですね。

話を戻しますと、登記済証にはこのように法務局=登記所(以後便宜上「登記所」に統一します。)の印鑑が押され、受付年月日、受付番号が記載(実際はスタンプ)され、登記簿にも記載(コンピュータ化された登記所では入力)されるわけです。

また、紛失したり、物理的に磨耗・破損して内容の読解が不能となったとしても、登記済証は絶対に再発行されません。
「やっぱり、権利証=登記済証って大事じゃん!」と思われる方も多いでしょうが、皆さんが勘違いし易いのが、「権利証自体に権利そのものが付着しいる」と認識してしまう点です。これは違います。
冒頭のように他人の「借金のカタにとった権利証」だけを持って、「これで金を貸してくれ」といっても、普通は(まっとうな業者さんは)まず、貸してくれないですよ。
所有権移転の登記をするにも、抵当権などの担保設定の登記を行なうにも「登記済証」だけでは申請手続きはできません。

原則、登記申請は登記権利者(新たに所有権を取得される方、担保権者となる方)と登記義務者(所有権を失うなど、不利益を被る方)双方が出頭し共同で行うか、司法書士などの法律上双方の登記申請代理人(法律上は原則的には双方代理は禁止ですが、登記申請については、司法書士が双方の代理人となることは認められています)となれる方が申請しなければなりません。
不動産売買による所有権移転の登記申請の場合、司法書士に依頼する場合は当然委任状、押印するのは売主(義務者)は実印。買主(権利者)は認印でも可能です。そして売主については印鑑証明書、買主は住所を証する書面(住民票の写しなど、会社なら会社の登記簿謄本)、そして売主の「登記済証」です(その他の司法書士が作成する「登記原因証明情報」などについては、ここでは詳細は省かせていただきます)。
「お役所」に何らかの手続の申請をする場合、色んな書類を付けなきゃならなくて面倒臭い、と殆どの方がお感じになると思いますが、一応添付する書類には、それぞれ意味があるわけです。
住所を証する書面は、「虚無人名義」=実在しないものへ名義を移すことを防止するため、売主の印鑑証明書は「申請が真意に基づくことを証明するため」に添付します。およそハンコ社会の日本では、「実印押して印鑑証明までつけてんだから間違いねえだろ」ってことなのでしょうか
ここで「権利証」=所有権の登記済証の本来の役目は何かというと、不動産売買の買主などの登記権利者に登記が完了したことを目に見える形で知らせ、以後、その新たに所有権を取得した方が義務者となって申請をする際に、その方が、その不動産の所有者であることを証明するためのものです。すなわち、登記簿に所有者として記載されているAさんと、登記済証をもっていて今回義務者として登記を申請しているAさんが、同一人物・本人に間違いないことを証明するためのものである、ということです。
そしてまた、大事な登記済証を提出するのですから、所有権を他者に譲る申請の意思の確認にもなる、というわけです。

重要なのは「登記済証」は現在の所有権登記名義人「本人に間違いない」こと、「登記申請が真意に基づくものである」ことを証明するものだということです。繰り返しますが、「権利証自体に権利そのものが付着している」のではありません。
ですから、相続による所有権移転登記では申請に際して「登記済証」の添付は必要ありません。何故って、「本人と間違いないこと」、「本人の意思」を証明しようにも、その本人はお亡くなりになっているのですから(笑、少し不謹慎ですかね、すいません)。この場合は遺言書や、戸籍謄本、遺産分割協議書を添付して必要な事実を証明することになります。

つまり、所有権登記名義人「本人に間違いないこと」「登記申請が真意に基づくものであること」を別の形で証明できれば登記は可能、ということになりますよね?実際可能です。
登記済証が紛失した場合などには、改正前の不動産登記法では「保証書による登記」の制度が、改正後は「事前通知による本人確認」、司法書士などの「資格者による本人確認」の制度がそれです。
ただし、手続は面倒で日数もかかります。司法書士に「本人確認」を依頼すれば、その分費用も嵩みます。とは言え、司法書士側も大きなリスクを伴うのですか仕方がないとは思いますが。
当然「本人になりすます」不届きな連中もいるわけで、大掛かりな不動産詐欺の巻き込まれる危険性があるわけです。
そういえば、あの「ナニワ金誘道」にも不動産専門の詐欺師、「地面師」が登場するエピソードがありましたね。改正前の「保証書制度」を利用した話でした。

ナニワ金融道 (1)

ナニワ金融道 (1)

  • 作者: 青木 雄二
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1999/03
  • メディア: 文庫
ですから、「権利証」だけを持っていかれても平気なのですが、印鑑証明書と、さらに白紙委任状に実印を押させられたら要注意です。知らない間に登記される可能性が出てきますよ。
私が以前勤務していた司法書士事務所もそうですが、普通の全うな事務所では、当然、書類が揃っていても本人の意思の確認はキッチリとやっていましたが、全ての代書屋さんが、そうとは限りませんし、「なりすまし」に騙される可能性もないとはいえないわけですから。
それと「委任状に実印さえ押さなきゃ大丈夫」とタカをくくっているのも危険ですよ。悪質な金融業者の中には、借金の際の金銭消費貸借契約書の中に(小さく分かりにくく)委任条項を入れているようなケースもありますから。切羽詰った状況じゃ契約書を隅々まで読むなんてわけにはいかないでしょう。確認せずに契約書に実印を押印してしまって、そこで「今、これだけの貸金で抵当権設定の登記をすると費用がもったいないし、お客さんならすぐ返せるでしょう?でも何かあったときのために権利証と印鑑証明書、預らしてもらえませんかね?」などといって、知らない間に抵当権の登記がされてた、なんて恐ろしい事件が実際にありましたから。
長々と書いてきましたが、今回の豆知識としては「権利証自体に権利そのものが乗っかっているわけではない」、「権利証をなくしてしまっても権利がなくなるわけではない」ということと「権利証」ではなくて正式には「登記済証」です。ということです。(笑)
いくら、法律上の規定はそうでも、昔の武士の「所領安堵状」とか「証文」、もしくは明治時代の「地券」とかのイメージ(このへんは私の好きな「法制史」の範疇、そのうち機会があれば書いてみたいと思ってますが)からか、きちんと「文書・書面」で権利が保証されていないと不安に感じますよね?
ところが、お国が進めるオンライン化の波は不動産登記の分野にも及んでくるわけで、実際に不動産登記のオンライン申請は制度化され、実施されています。
登記申請は司法書士の専門分野で、同じように「代書屋」と呼ばれる行政書士は直接携われない分野なのです(興味はあり、このようにブログのネタにもしているわけですが)。
オンライン申請では登記完了後、「登記済証」は交付されません。しつこいようですが、「本人に間違いないこと」「登記申請が真意に基づくものであること」 を別の形式で証明できればよい、ということなので、オンライン申請では「登記識別情報」という、いわばIDないしはパスワードを発行し、従来の「登記済証」に代わるものとして運用していくようです。
そうです、いずれ「権利証」はなくなってしまうわけです(本当に?)。
詳細はまたの機会に
つづく

 


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